どーも、映画研究家の丸山です。 今回はアンテベラムを観ました。
アンテベラムとは?
アンテベラムは、『ゲットアウト』、『アス』のプロデューサー『ショーン・マッキトリック』のプロデュースにより、2020年に製作された映画です。
アスと同様、社会派ホラーである本作には特徴的なトリックが仕掛けられており、一般的なあらすじは、見るとかえって混乱を生じさせます。
引用元:https://www.imdb.com/title/tt10065694/
この映画は何ですか?
「ホラーではない」です。
主演は?
ジャネール・モネイです。とても美人で素敵な女性ですよね。
今後も話題作への出演が続くでしょう。
ジュリアロバーツの『ホームカミング』シーズン2では主人公を演じています。
あらすじは?
先に知っておくべき事
『この映画には、「秘密」があります。』
このフレーズを覚えていますか?映画『シックスセンス』の冒頭で使われたものです。その秘密はたった一言で表現できてしまう事に加えて、それを先に知ってしまうと、映画を観た時の驚きがなくなってしまいます。
たったの一言で映画の効果がなくなってしまうため、その影響力を考慮し、「ネタバレしないでね」と冒頭でお願いが流れたのです。このようなお願いをする映画は例がなく、これ自体が話題になりました。
この手の映画は、たった1つのネタで映画が台無しになってしまう事から、ワンポイント映画と呼ぶ事ができます。本作も、ワンポイント映画なのです。知ってしまうと、映画を観た時の驚きがなくなってしまいます。
特に、本作は驚きと混乱を技巧的に用いているため、ワンポイントネタを知ってしまうと、二度とこの映画で驚きと混乱を体験する事はなくなってしまいます。そのような映画であるため、多くの批評サイトでは、あらすじを意図的に偽っています。
本作は、あらすじも読まずに情報ゼロで観るのが最も適切な鑑賞方法です。公式サイトすら見ないほうがいいです。
ではなぜこの映画を観ようと思ったのか?それは、アスのプロデューサーの最新作という事だけで期待をして何も読まずに観たからです。これは最大限にこの映画を楽しめる状況でした。家族に感謝です。
次に知る事
では、実際のあらすじに行きましょう。
(過去パート)
ほとんど会話がない状態で、南北戦争時代と思われる状況で白人が黒人を農園で奴隷にしています。ルールを破ると焼却炉で焼かれてしまいます。主人公は奴隷側の女性です。
新たに奴隷が追加され、将軍らしき人が演説をします。彼らに対して「帰郷」を歓迎し、許可なく発言してはならないとルールを課します。見知らぬ新奴隷が、主人公に「あなたを知っている」と話しかけますが、主人公は知らないようです。
状況を理解できる会話などが何もないため、何を見せられているのか理解できない状態が続きます。このような奴隷映像が30分近く続いた後、主人公の顔が映された状態で突然電話の着信音が鳴ります。
(現代パート)
何が起きたか分からないまま、舞台が現代に変わります。主人公は同じ女性ですが、時代を超えて何かが繋がっているのかどうか、前後の繋がりが分かりません。
この現代版主人公は、人種差別問題に取り組む女性です。オンライン取材を受けると、態度が失礼な白人女性が相手でした。ろくに会話もせず終了し、夜に講演を行います。
ホテルの部屋に、差出人不明の花束が届き、「帰郷をお待ちしています」というメッセージが添えられていました。講演中に、ホテルの部屋に誰かが侵入します。どうやら、オンライン取材の時の女性のようです。
講演後、友人と別れてタクシーに乗ると、誘拐されます。外には、大きな選挙広告が見えます。ここまでの所、まだ何が起きているのか観客には分かりません。
(過去パート)
再び、過去パートに戻ります。主人公は、農園からの脱出を試みます。
最後に知るべき事
前項では、敢えて秘密を書きませんでした。記事の最後の方で改めて記載します。
みどころは?
2度騙されるところです。
できれば、誰もがこの映画を何も知らずに鑑賞する機会を逃さない事を願います。
ホラーではない
ホラー映画と紹介される事もある本作ですが、ホラーではありません。ただ、私はホラーだと思い込んで観ていたので、「いつ怖くなるんだろう・・・あと30分しか残っていないのにまだ怖くならない」と別の意味で恐怖でした。
言えたとしてもせいぜい「社会派ホラー」です。『アス』もこれに該当します。
アスと同じ形式
『アス』も、ワンポイント映画です。同じプロデューサーの作品で、『ゲットアウト』は、若干ホラー寄りです。『アス』は、それなりにホラーですが、社会派ホラーと言うことができます。
本作は、ホラー度は皆無ですが、アスと同じく、社会的な恐怖は存在します。そのため、ギリギリで社会派ホラーと言うことはできる程度です。ホラー映画が苦手な人には幸いするでしょう。
社会的な恐怖ってホラーじゃないの?
例えば、国家によって社会的に抹殺されるという形式は、社会的な恐怖です。国家の秘密を知ってしまった人が幽閉されるとか、国家が人知れず行った大規模な人体実験の事実が発覚する、といった内容が該当します。
純粋なホラーではありませんが、「国がそんな事したなんて怖い」というタイプの怖さが該当します。『アス』は明確に社会派ホラーです。本作は”どちらかと言えば”社会派ホラーになります。
本作のワンポイントとは
何度も書きますが、当ブログは鑑賞後の感想共有のために運営している都合上、ネタバレで書いています。
くれぐれも、鑑賞前の人はこの先を読まないようにして下さいね。
1回目の混乱
最初の混乱トリックでは、まだ何が起きているのか観客には分からないようになっています。過去⇒現代に映像が切り替わる時に携帯の着信音が鳴ったと思うからです。
2回目の混乱
2回目の混乱トリックで、本作で何が起こっているかが明かされます。1回目と同じく、携帯の着信音によって時代が変わる仕掛けです。
しかし、現代⇒過去に映像が変わったのに、携帯の着信音が鳴っています。観客の混乱が続く中、将軍は外に出て、電話に出ます。過去の時代に、スマホだけ時間を超えているのか?観客の混乱はしばらく続くでしょう。
このシーン以降、過去パートは過去ではなく、本作は全て現代で起きていた事が判明します。差別主義者である政治家が、人権擁護派の黒人を選別し、私有地で奴隷生活を強制するという私的な趣味の生活を送っていたのです。
そして、本作を時系列に並べ替えると、現代パート⇒過去パート1⇒過去パート2であった事が分かります。何が起きているかの情報が制限される事で、舞台が変わるたびに混乱を体験させられていました。
2回観たくなる
実は、思い返すとたくさんの情報がちりばめられていた事が分かります。1回観ただけでは全てを理解できないので、もう一度観たくなる作品です。
不思議に思うポイントは複数あります。
- 蝶のマークの意味
- 自殺女性の足のタトゥーの意味
- ホテルカウンターの女性の態度
- 教授は現代パートにもいたのか
- ナンパしてきた男は誰なのか
- ホテルの部屋の名前の意味
- 2回使われる「帰郷」の意味
- 将軍が奴隷女性と寝る理由
これ以外にも色々あります。
繰り返し鑑賞して、全ての謎を解き明かしてみて下さい。
一般的なあらすじの問題点
チラ見した感じでは、どこもあらすじで嘘を書いているようです。冒頭の過去パートを、150年前が舞台。と書くのは、観客に不要な先入観を与えます。
ろくに情報がないまま最初の過去パートを見せられる事の意味は、「何が起きているか分かりにくくさせるため」と理解できますので、南北戦争時代が舞台、と確定的に書いてしまうのは、良くないと思います。
南北戦争かどうかすら、確定情報ではなく推測段階に過ぎないので、あらすじに書いてしまうのは適切ではないのです。そんなわけで、ネタバレにならないように良心的に書こうとしているあらすじサイトは、逆に良心的ではない結果を招いています。
あらすじを見ないほうがいいという理由はここにあります。公式サイトですら、二人の女性というように書いてしまっています。
二人の女性なのか、同一人物なのかも、混乱と共に推測する事が楽しい作品なので、紹介が難しい作品である事は間違いありませんが、うまい表現とは言いがたいですね。クリエイターが、映画の紹介方法までプロデュースすべきだったのではないか、と思います。
タイトルの意味
南北戦争時代付近を指す言葉として使われるようです。英語圏の人なら、意味が分かって鑑賞するのかもしれません。
本作中では、アンテベラムは奴隷生活エリアの名前でした。政治家が所有していた南北戦争アトラクションの奥深くにある特定のエリアに立っていた看板から、そこがアンテベラムと名付けられていた事が分かります。
アトラクションは一般観光用の施設で、マネキンが多数設置され、火薬の爆発などもあったようです。そのため、奥地で実際に黒人を射殺しても、アトラクションの音としてごまかす事ができたのでしょう。
誘発されたミスリード
着信音がキーになっている本作ですが、1回目にミスリードがあるようです。
過去パートから現代パートへの切り替わりで着信音が鳴ったため、観客は現代側の音声だと理解してしまいます。しかし、実は最初の着信音も、過去パートの中で流れていた音だと気づいたでしょうか?
両方とも将軍のスマホの音
政治家である将軍は彼女と一緒に寝ており、再選を狙うためいつでも電話に出られる必要がありました。夜中でも電話がかかってくるのです。彼女の顔が映っている間に着信音が流れますが、実は1回目も2回目も、部屋の外で将軍のスマホが鳴っている音です。
しかし映像が現代に切り替わるので、若干の混乱を経て「舞台が変わって現代でスマホが鳴っていたんだ」と錯覚してしまいます。実際には1回目の着信音も、将軍のスマホの音です。その音で目が覚めた彼女の顔が映ります。
これに気づいてもストーリーの理解に変化はありませんが、クリエイターにずっと騙され続けていた事が分かります。天才的ですね。
ポスターの蝶の意味
ポスターでは、主人公の口元に赤い蝶のシルエットがあります。この意味は何でしょうか?ヴェロニカは、自分の著書の表紙に蝶の絵を配しています。パソコンの壁紙も同じ蝶の絵です。つまり、この蝶は「現代」を表しています。
過去パート1で自殺した女性の足には、蝶のタトゥーがありました。自殺した女性は、農園に連れてこられた際、ヴェロニカを知っていると言います。これによって、現代パートを見た時に、女性が自殺した過去パートが実は現代であると推測できるきっかけとして蝶が用いられています。
ポスターでの蝶が口元を塞いでいるのは、農園で会話が禁じられているという意味と、過去パート1で無言を貫く事で、本作の秘密が終盤まで明かされない事を予感させる効果として用いられていると考えられます。
別の視点では、本作のネタバレをしないでね!という暗黙のメッセージとも理解できます。
評価の理由
ロッテントマトの評価は低いそうですが、あそこの評価は当てになりません。ただし、この映画は、鑑賞時のコンディションによって、評価が大きく変わります。あらすじすら読まずに鑑賞するのがベストです。素敵な混乱を体験できるからです。
本作の魅力は、何が起きているのか分からず、混乱と驚きを体験する事がクリエイターの狙いです。その狙い通りに鑑賞できれば最高の評価になるでしょう。
どこで観れますか?
日本では、2021年11月5日から映画館で上映しています。アメリカでは、コロナの影響で映画館上映を断念し最初からVODで公開したようなので、本作の配信開始も早いことが予想されます。しかし、本作は、映画館で観たほうが面白い傾向にあると思います。
可能ならば、初回だけでも映画館で観たいですね。
他にもあるオススメ作品
プロデューサーが同じ作品『アス』
こちらも社会派ホラーの傑作です。『ゲットアウト』から『アンテベラム』まで、プロデューサーの手腕が光る個性的な作品群です。従来のホラーの形式にない新しいホラー映画である『アス』は、社会派ホラーという呼び方がピッタリです。
主演が同じ作品
ジュリアロバーツの『ホームカミング』シーズン2の主演も、ジャネール・モネイです。彼女の魅力をドラマでたっぷり観ることができます。
今後もジャネール・モネイには注目ですね。
アンテベラムが配信に来たら、何度も観たいと思います。